2006年09月04日
邂逅
テンカラ釣り1年生のiwaoです。
今日は、この釣りにどっぷり捕らわれるきっかけとなった釣行記です。
ちょっと長いので、気が向いたら読んでみてください。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
仕事柄、野遊びとも遠ざかっていたある日のこと。
なぜか無性に渓流へ行きたくなった。
岩魚が釣りたかった。
以前に一度、餌釣りをしたことがあった。
それなりに楽しかったものの、
また竿を持ちたい気持ちは湧かなかった。
テンカラという釣法があるということは、昔から知っていた。
毛鉤を使った古来より伝わる釣法だ。
「よし。」と思った。
「やってみよう。」と思った。
一年くらいは釣れなくても仕方ない。
釣れるまで通うつもりで、近くの釣具屋で道具を揃えた。
1万5千円くらいだったろうか。決して安くはない。
「毛鉤で魚を釣る。」
小さい目標かもしれない。
しかし、自分に何かを課したのは
随分久しぶりのような気がした。
翌日は、4時前に起きた。
T川の最上流域に向かった。
沢に立ち、藪蚊の猛襲を受けつつ仕掛をつくる。
出来上がったものは、なんとも心もとない。
棒と糸と針。
・・・それだけ。
たちまち不安になった。
「本当にこんなので釣れるのだろうか・・・」
疑心暗鬼になりながらも、竿を振って針を流れに送り込んだ。
狙ったところに落とすことなどできないが、
前に飛ばす分にはそれほど難しくはなかった。
しかし、毛鉤がまったく見えない。
カディスと言われる毛鉤をつかっていたが、
2投もすると水没してしまう。
フロータントや偏光グラスなどもちろんない。
足元をすり抜ける魚影は見えるが、
全く反応がつかめない。
釣れるのは、ヤナギやサワグルミ、ナナカマドだけ。
購入した毛鉤の半分を失った。
「いやはや、難しいな。」
滴る汗、執念深い藪蚊。
しかし、身を切るように美しい沢の流れがあった。
魚は釣れない。
けれども無性に心地よかった。
遡行し始めて3時間ほど経ったろうか。
眼前に小さな落ち込みが現れた。
落ち込みの先は、5mほどのプールになっていて、
落ち込んだ水が巨岩の間を静かに滞流しているのが見えた。
0.5mくらいの落差から、豊富な水が流れ込んでいた。
プールの手前には、直径40cmほどのサワグルミが
倒れこんでいて自分の姿を上手く隠してくれている。
「枝と枝の間に通せれば・・・」
自信はなかったが、この日一番のポイントを
指をくわえて見ている手はない。
慎重に、慎重に打ち込んだ。
奇跡的に#12のエルクヘア・カディスが
落ち込みの手前50cmに着水した。
そのとき・・・
規則的に揺れていた水面が、ボコリと湧き上がった。
鼓動が止まった。
空白の時間がひどく長く感じられた。
神経細胞がようやく腕に指令を伝達すると、
はじかれたように竿を立てた。
手に重さが伝わった瞬間、水面が炸裂し飛沫が上がった。
もう一度鼓動が止まった気がした。
今度の空白は短かった。
魚は、落ち込みの淵へ淵へと竿を絞り込んでいく。
取り込みのことなど考えていなかった。
「枝に巻かれるな!」、「岩の奥に逃げ込ませるな!」
必死で頭の中で繰り返した。
夢中でサワグルミの幹に立ち上がり、
高々と竿を掲げると、夢の中のように竿が
大きな弧を描いてしなった。
3度繰り返して淵への逃亡を試みた後、
魚は段々と力を失った。
美しい岩魚だった。
ネットなどない。
抜き上げて糸を切る危険を冒す気にはなれなかった。
毛鉤は岩魚の上顎にガッチリと食い込んでいた。
水面で大きく口を開けた岩魚の下顎に
親指を突っ込んだ。
親指の腹が痛かったが、心地よくもあった。
浅く裂かれた指からは、血が滲んでいた。
背中のザックから真切を取り出して、釣り上げた岩魚の鰓蓋から
背骨の付け根に刃を入れた。
岩魚は、小さく痙攣して動かなくなった。
魚と私は血を分け、
魚は私のものになった。
岩に腰を掛けて、煙草に火をつけた。
ジッポを持つ手が少し震えた。
煙が薄くたなびき、体の一点に凝集していた
血液が融け始めた。
「出始めたばかりだな。」
ため息がでそうなくらい美しい夏型のミヤマカラスアゲハが
ナナカマドの林冠をかすめて飛んでいった。
完成された一日だった。
///////////////////////////////
ほんとは、
「獲ったどぉぉぉぉーーーーーーぉ!!!」
的な行動が入るのですが、文調にそぐわないのでカットしましたw
今思うとそれほど大きくもないですが、
生涯で1尾だけの思い出の岩魚です。
今日は、この釣りにどっぷり捕らわれるきっかけとなった釣行記です。
ちょっと長いので、気が向いたら読んでみてください。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
仕事柄、野遊びとも遠ざかっていたある日のこと。
なぜか無性に渓流へ行きたくなった。
岩魚が釣りたかった。
以前に一度、餌釣りをしたことがあった。
それなりに楽しかったものの、
また竿を持ちたい気持ちは湧かなかった。
テンカラという釣法があるということは、昔から知っていた。
毛鉤を使った古来より伝わる釣法だ。
「よし。」と思った。
「やってみよう。」と思った。
一年くらいは釣れなくても仕方ない。
釣れるまで通うつもりで、近くの釣具屋で道具を揃えた。
1万5千円くらいだったろうか。決して安くはない。
「毛鉤で魚を釣る。」
小さい目標かもしれない。
しかし、自分に何かを課したのは
随分久しぶりのような気がした。
翌日は、4時前に起きた。
T川の最上流域に向かった。
沢に立ち、藪蚊の猛襲を受けつつ仕掛をつくる。
出来上がったものは、なんとも心もとない。
棒と糸と針。
・・・それだけ。
たちまち不安になった。
「本当にこんなので釣れるのだろうか・・・」
疑心暗鬼になりながらも、竿を振って針を流れに送り込んだ。
狙ったところに落とすことなどできないが、
前に飛ばす分にはそれほど難しくはなかった。
しかし、毛鉤がまったく見えない。
カディスと言われる毛鉤をつかっていたが、
2投もすると水没してしまう。
フロータントや偏光グラスなどもちろんない。
足元をすり抜ける魚影は見えるが、
全く反応がつかめない。
釣れるのは、ヤナギやサワグルミ、ナナカマドだけ。
購入した毛鉤の半分を失った。
「いやはや、難しいな。」
滴る汗、執念深い藪蚊。
しかし、身を切るように美しい沢の流れがあった。
魚は釣れない。
けれども無性に心地よかった。
遡行し始めて3時間ほど経ったろうか。
眼前に小さな落ち込みが現れた。
落ち込みの先は、5mほどのプールになっていて、
落ち込んだ水が巨岩の間を静かに滞流しているのが見えた。
0.5mくらいの落差から、豊富な水が流れ込んでいた。
プールの手前には、直径40cmほどのサワグルミが
倒れこんでいて自分の姿を上手く隠してくれている。
「枝と枝の間に通せれば・・・」
自信はなかったが、この日一番のポイントを
指をくわえて見ている手はない。
慎重に、慎重に打ち込んだ。
奇跡的に#12のエルクヘア・カディスが
落ち込みの手前50cmに着水した。
そのとき・・・
規則的に揺れていた水面が、ボコリと湧き上がった。
鼓動が止まった。
空白の時間がひどく長く感じられた。
神経細胞がようやく腕に指令を伝達すると、
はじかれたように竿を立てた。
手に重さが伝わった瞬間、水面が炸裂し飛沫が上がった。
もう一度鼓動が止まった気がした。
今度の空白は短かった。
魚は、落ち込みの淵へ淵へと竿を絞り込んでいく。
取り込みのことなど考えていなかった。
「枝に巻かれるな!」、「岩の奥に逃げ込ませるな!」
必死で頭の中で繰り返した。
夢中でサワグルミの幹に立ち上がり、
高々と竿を掲げると、夢の中のように竿が
大きな弧を描いてしなった。
3度繰り返して淵への逃亡を試みた後、
魚は段々と力を失った。
美しい岩魚だった。
ネットなどない。
抜き上げて糸を切る危険を冒す気にはなれなかった。
毛鉤は岩魚の上顎にガッチリと食い込んでいた。
水面で大きく口を開けた岩魚の下顎に
親指を突っ込んだ。
親指の腹が痛かったが、心地よくもあった。
浅く裂かれた指からは、血が滲んでいた。
背中のザックから真切を取り出して、釣り上げた岩魚の鰓蓋から
背骨の付け根に刃を入れた。
岩魚は、小さく痙攣して動かなくなった。
魚と私は血を分け、
魚は私のものになった。
岩に腰を掛けて、煙草に火をつけた。
ジッポを持つ手が少し震えた。
煙が薄くたなびき、体の一点に凝集していた
血液が融け始めた。
「出始めたばかりだな。」
ため息がでそうなくらい美しい夏型のミヤマカラスアゲハが
ナナカマドの林冠をかすめて飛んでいった。
完成された一日だった。
///////////////////////////////
ほんとは、
「獲ったどぉぉぉぉーーーーーーぉ!!!」
的な行動が入るのですが、文調にそぐわないのでカットしましたw
今思うとそれほど大きくもないですが、
生涯で1尾だけの思い出の岩魚です。
Posted by iwao at 11:27│Comments(3)
│毛鉤釣り
この記事へのコメント
こんばんは。
昨日の写真とは違う綺麗さのイワナですね。
なんともこちらまで緊張感の伝わる文章です。
テンカラ興味があります。
ダイレクトに1本竿って言うのもいいです。
昨日の写真とは違う綺麗さのイワナですね。
なんともこちらまで緊張感の伝わる文章です。
テンカラ興味があります。
ダイレクトに1本竿って言うのもいいです。
Posted by carrera930 at 2006年09月05日 00:16
iwaoさん こんちは~^^
毛鉤での初釣果、まさに、とったどぉぉぉーーー! の瞬間でしたね。
文面からその時の感動が伝わってきました。
一度これを経験したら冥府魔道の毛鉤釣り地獄(天国か(笑))まっしぐらッす。^^;
毛鉤での初釣果、まさに、とったどぉぉぉーーー! の瞬間でしたね。
文面からその時の感動が伝わってきました。
一度これを経験したら冥府魔道の毛鉤釣り地獄(天国か(笑))まっしぐらッす。^^;
Posted by Tamakura at 2006年09月05日 12:39
>crrera930さん
こんばんわ。
テンカラ、是非やってみてください。
オラは、フライに手を出したいですがw
竿で探れる幅の沢だと、ワンアクションで
ポイントというポイントを丹念に攻めることができますよ。
反面、幅が広い沢だと、常に体を水面に
さらすことになるので、魚に逃げられることが
多いですね。また、度々ある大きな淵では
ほとんど無力です。こんなときフライロッドならば、
沈む毛鉤つかえばデカイのが釣れるかもなぁと
指を咥えてますw
>Tamakura さん
こんばんわ。
毛鉤釣り、楽しいですね~。
もうダメそうですw
こんばんわ。
テンカラ、是非やってみてください。
オラは、フライに手を出したいですがw
竿で探れる幅の沢だと、ワンアクションで
ポイントというポイントを丹念に攻めることができますよ。
反面、幅が広い沢だと、常に体を水面に
さらすことになるので、魚に逃げられることが
多いですね。また、度々ある大きな淵では
ほとんど無力です。こんなときフライロッドならば、
沈む毛鉤つかえばデカイのが釣れるかもなぁと
指を咥えてますw
>Tamakura さん
こんばんわ。
毛鉤釣り、楽しいですね~。
もうダメそうですw
Posted by 管理人 at 2006年09月05日 20:42
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